本気で仕事に向き合う ~修行編~ 静岡市 鍼灸院
本気になるということ
〜叱られ、迷い、気づいた鍼灸師としての覚悟〜
試練の一ヵ月間を乗り越え、私はようやく、正式に鍼灸院へ就職することができました。
しかし、本当の修行は、ここから始まりました。
「帰れ」
「立ってろ」毎日の叱責 就職初日から、私は現実の厳しさを思い知らされました。
「手を早く動かせ」
「遅い」
「帰れ」
「その場に立ってろ」 そんな言葉が飛び交う日々。
一瞬でも集中を切らせば、現場は乱れ、診療の流れが崩れます。
私は常に耳を澄ませ、次の動きを読みながら、
師匠や患者さんの動きに気を配り続けました。
緊張の糸が張り詰めた毎日。
それでも、時間が経つにつれ、少しずつ任される仕事が増え
、責任とプレッシャーも大きくなっていきました。
心が折れかけた朝 そんな日々が一年ほど過ぎたある朝、私はふと気がつくと、
始発の電車に乗り、遠く離れた公園にひとりで座っていたのです。
何も考えられず、ぼんやりと一日を過ごし、気づけば日は沈みかけていました。
携帯を開くと、着信履歴は40件以上。
親、兄弟、そして師匠からも―― 皆が私のことを心配してくれていたのです。
恐る恐る治療院へ電話をかけると、師匠は一言だけ。
「すぐに戻ってきなさい。」 治療院に戻ると、師匠は静かに言いました。
「明日からまた来なさい。」 それだけでした。
変わったのは、自分の“覚悟” その日の夜、私は自問自答を繰り返しました。
「自分は、本気で働いていたのか?」
「怒られる意味を理解していたのか?」
「自分の行動が、診療の流れを乱していたのではないか?」
ただ“怒られている”と受け止めていた私は、
それを「自分のこと」として考えたことがなかったのです。
今までは、どこか他人事だった。 師匠がやってくれる。 副院長が決めてくれる。
受付がやってくれる―― そうやって、責任をどこかに預けていました。
でもこの日を境に、私の中で考え方が変わりました。
次の日から、私はまず院内の掃除を毎朝自主的に始めました。
「汚れを見つける目は、患者さんの不調を見つける目にもつながる。」
そう思いながら、治療に必要な基本を積み重ねました。
そして、患者さんへの接し方も変わりました。
「自分の患者さん」として、責任をもって向き合うようになったのです。
そうすると、今まで耳に刺さっていた厳しい言葉も、
“自分のための言葉”として受け入れられるようになっていました。
気づいたのです。 私はまだ、本気で患者さんを良くしたいと思えていなかった。
ただ、指示されたことを“作業”としてこなしていただけだったと。
そして、夢が芽生える それからは、三年間ほぼ休みなく働き続けました。
必死に学び、臨床を重ねる中で、ある思いが徐々に大きくなっていきました。
「自分の治療院を開きたい」 患者さんと自分自身が本気で向き合える場所をつくりたい。
その思いが、心の奥から静かに、そして力強く湧き上がってきたのです。